TAKUROH TOYAMA

PRINTED IN AN EDITION OF 600 COPIES.
1ST OCTOBER 2021

PHOTOGRAPHS BY TAKUROH TOYAMA
DESIGN BY NATSUKO YONEYAMA
PRINTING & BINDING BY LIVE ART BOOKS
COOPERATION WITH YYY PRESS

PUBLISHERD BY Fu-10 LLC.

COPYRIGHT © 2021 TAKUROH TOYAMA
PRINTED IN JAPAN

ORDER
2022/11/12

トヤマタクロウ展示『DEVENIR 2022/11/11-11/27』
川島小鳥さんとの対話

司会:米山菜津子

米山 今日は、写真家のトヤマタクロウさん、川島小鳥さんとのトークにご来場いただきありがとうございます。福岡の本屋青旗さんでのトヤマさんの展示に際して、お二人に集っていただきました。司会をつとめるデザイナーの米山です。今回の展示のグラフィックデザインなどを担当しているものです。

トヤマ 川島 よろしくお願いします。

米山 今日はまず、皆さんの椅子の上に置かせていただいたZINEがあるんですが、こちらは後ろにいらっしゃる山崎さんという方が自主的に制作されたもので、トヤマさん小鳥さんの対談を事前に行ってそれをまとめたものになっています。今日だけのためのものなので、ぜひお持ち帰りください。この場でこういう話をしようと考えていたことが、ここにまとめられていて、どうしたものかなと思っているんですが(笑)

トヤマ でも、まだ読んでいない人も多いと思うので。

米山 そうですね。ではまず、おふたりの出会いからお願いします。

トヤマ はい、ZINEにも書いてあるんですけど(笑)。2014年に小鳥さんの「おやすみ神たち」という写真展を見に行った時にお会いしたのが最初で。その時はちょっと挨拶しただけで終わっちゃったんですけど、今年からよく遊ぶようになって。今日のトークは、お酒の席のノリで「やりましょうか」って。

川島 去年、写真集の『DEVENIR』が出たときに、東京の浅草で展覧会をやっていて、それを見に行ったらすごく面白くて。そのときはまだお互いモジモジしてたかな。

トヤマ そうですね。してましたね。写真集を買ってくれて、サインして、みたいな。あんまり会話はしなかったような。

川島 (ツーショットの)写真、撮らしてもらった。

トヤマ 誰かが撮ってくれましたね。

川島 『DEVENIR』をつくっているとき、僕が別件で米山さんにすごくお世話になっていて、制作過程を聞いてたから、楽しみにしていて。あと版元というか、本を出している方とも僕が仕事でお世話になっていて、こういう展示やるからって話を聞いていたりして。

トヤマ 仲良くなったのは、共通の友達を介してドライブしたりとか、展示を見に行ったりとか、そういう機会を何回か経て。最近はふたりで会ったりもしているんですけど、このZINEではまだ「ふたりで会うのはまだ恥ずかしい」と僕が答えている(笑)。今はもう恥ずかしくなくて。馴染んできました。

川島 あんま年上の人と……年、上すぎる?

トヤマ あんまりそこは気にしてないです。正直、年齢もはっきりわかってないです(笑)

米山 小鳥さん、トヤマさんの今まで写真を見てきて、東京での展示も見てくれて、今回の展示も見て、何か感じたことがあれば教えてください。

川島 初めて会った時、トヤマくんが本をつくってて、それを見せてもらって。

トヤマ どんなやつでした?

川島 人が出てきてた。初めて……ぐらいの?

トヤマ テルメ(東京・都立大学にあるTherme Gallery http://www.thermegallery.com/)の時のやつかな。

川島 こんな感じ(B5くらい)の大きさで。ZINEかな。

トヤマ どれだろう。本のダミーだけつくって、結局ボツにしたやつかな。僕が小鳥さんの写真を初めて見たのは、自分がまだ写真を撮り始める前で、『BABY BABY』という写真集を銀杏BOYZファンの友達が持っていて見せてもらったのが最初なんです。その時は、いい写真だなっていうくらいで、ぼんやりと。でも自分が撮るようになって色々見ていくうちに、小鳥さんの写真って「全部光ってるな」と思うようになって。特別なこととか、変なこととかしているわけじゃないのに、なんでこんな風に撮れるんだろう? って。

川島 なんで写真を撮り始めたんですか?

トヤマ 大学で美術サークルに入って、なんかやろうと思ってなんとなくカメラを買って。その時は面白くなくて一回辞めちゃったんですけど。しばらくして暇になったときにもう一度撮ってみたら、タイミングがあったのか、楽しくって。

川島 そっか。

米山 トヤマさん、撮り始めた頃はフィルムのコンパクトカメラで周りの人を撮ってるという印象だったんですけど、だんだん変わっていって。今回の展示の写真は、昨年つくった写真集のページを高解像度のデジカメで複写している写真。使うカメラも変わってきたし、やってることもだいぶ変わってきている。小鳥さんは逆に、やっていることに強い一貫性があるというか、二人の違いはまずそこかなって思っているんですが。小鳥さんはトヤマさんのどういうところが気になってますか?

川島 『DEVENIR』の展示って、3回目でしたっけ。

トヤマ そうです。東京で2回やって、福岡の今回が3回目。

川島 どれも行ったんですけど、毎回内容が全然違って。その発想がすごく面白い。僕は本を一冊出したら、その写真をとにかく巡回させるというか。いろんな場所で展示をするときも、その空間にどう展開するかを考えるんだけど、内容は同じだから。トヤマくん、同じことはやりたくない?

トヤマ 飽きっぽいのかもしれないですね。あと、特にこの本は「変化」みたいなことをテーマにしてつくったので、展示も何箇所かで毎回ちょっとづつ変えてやっていきたいなというのは最初からあって。

DEVENIR 2022/11/11-11/27 展示風景(福岡 本屋青旗にて)
DEVENIR 2022/2/15-27 展示風景(東京 Utrechtにて)
DEVENIR 2021/11/20-12/05 展示風景(東京 es quartにて)


川島 複写っていうのはどういうことなんですか?

トヤマ 「何の展示するの?」と聞かれたときに「去年出した写真集の展示をします」と答えているうちに、写真集の展示っていうのをそのまんまやったらどうなるかな?って思うようになったのと、さっきの、使うカメラが変わっていくみたいな話に通じるんですけど、デジカメをメインで使うようになったのと、複写台を仕事で使うようになって、これで何かできないかと思うようになって。

米山 入り口に貼ってある写真が、その複写台ですね。



トヤマ 写真自体、そもそも何かの複写というか、コピーだなという認識があって。だけどなんとなく、ネガをオリジナルとして、プリントの作品があって、写真集はそれのちょっと下、みたいな価値観があるじゃないですか。それがあんまり面白くないなと。もともと何かのコピーなのに。だから、コピーを繰り返したものが作品になっている、みたいなことをやりたいなと。

米山 ヒエラルキーの逆転というか。

トヤマ そうですね。

川島 アイデア? ひらめき?

トヤマ というよりは、最初は興味で。複写したらどうなるかなって。それをやっているうちに、これはこういうふうに考えたらまとまるんじゃないかとか、脳内会議をして。

川島 面白い〜。最近、色々、教えてもらっているんですよ。カメラのこととか、現像所もそうだし。聞いたらなんでも教えてくれる(笑)。写真やるって意外とひとりの作業だから、ありがたい。

米山 写真って、撮ったときはネガなりデータなり元があるけど、その状態では人に見せられないじゃないですか。何かに定着させないと。で、その定着方法がたくさんある。銀塩プリントにするとか、スクリーンに出す、壁に投射するとか、レーザープリンタで出すのも、印刷するのもそうだし。トヤマさんはその手段を色々試しますよね。小鳥さんもかなり試す方だけど。

トヤマ 小鳥さんも僕も試すんですけど、見ているところは結構違う気がします。

小鳥 聞いたところによると、今回の作品も全部紙の種類が違うって。

トヤマ 最初は色々試してみて、結局、全部違うというよりは何種類かに落ち着いたんですけど。例えばこれ(写真A)はラムダプリントっていう、レーザー出力による銀塩プリントで光沢紙という、割とスタンダードな定着方法。これ(写真B)は、顔料のインクジェットで、紙をマットでざらっとした紙にして。それぞれの写真に対してどういう質感が合うか、みたいなことを結構考えるんですけど。僕と小鳥さんは、その、変える時の基準を、それぞれ違うところで選んでいるような気がする。

(作品 A)DEVENIR 2022/11/11-11/27 出品作:無題
(作品 B)DEVENIR 2022/11/11-11/27 出品作:無題


米山 小鳥さんは、どう定着させるかをどうやって考えますか?

川島 うーん。

トヤマ 結構、人に聞いたりしますよね。

川島 そうなんですよ。あ、でも何か新しいことをやりたいっていうのはいつもあって。やったことない額装屋さんに行ったりとか、トヤマくんに聞いたりとか(笑)。凄いなって思うのは、トヤマくんは展示の準備が早いんですよ。

トヤマ 準備は早いんですけど、結果的には最後バタバタしてる(笑)。

川島 決断力がある。

トヤマ うーん。

川島 米山さんも決断力がある。

米山 私はわりと早い方ですね。

トヤマ 悩むのここで止めよう、みたいな地点ははっきりあるかもしれないですね。

川島 最初に思いついたことが大事、みたいな感じ?

米山 私はデザイナーなので、本をつくるときにこの写真だったらどういう紙が合うか?っていう事を考える機会が多いんですけど、自分はわりとファーストインプレッションで決めがちですね。正解というものはないので、迷いだすとキリはないんですけど。

川島 自己信頼している?

米山 自己というより、この写真をこう見たい、みたいなことがはっきりしていることが多いかも。

川島 迷うことはない?

米山 迷ったとしても、例えば何種類かテストで出してみて、見たらすぐこれだねってなる。

川島 『DEVENIR』は長い期間をかけてつくったんですか?

米山 最初にトヤマさんが写真集つくりたいと言いはじめたときからは、1年半とか? 最初のプランからはかなり変わりました。コロナ禍に入った頃くらいからスタートしましたね。

トヤマ 外に出づらくなって、人とも会えなくなって、でも何かしないとしんどいからやらなきゃみたいな感じで。そもそも、この本に入っている写真には複写をしているものが多い。カメラオブスキュラっていう、カメラの原型みたいなものをつくって、そこに映った像をデジカメで複写したりとか。友達が写っている写真や旅行の時の写真を集めてそれを複写したりとか。それが今回わかりやすい形で展示になっているかもしれないです。

川島 そっか。

トヤマ 複写しているので基本的には同じものなんだけど、でもなにか違って見える、同じだけど違う。最初に話した、小鳥さんの写真が普通なのになんでこんなにいいんだろう、みたいな疑問にも少し通じるんですけど、自分と小鳥さんが同じカメラで同じ場所で同じものを撮っても絶対に同じにはならなくて。僕自身が2枚撮っても違うし、もっと言うと1枚の写真を同じネガから2枚プリントしても、厳密に言ったら違うものになる。どんなに精密な機械で出しても。そういうところにこの時は興味があって。

川島 すごい。ちなみにこの、石は?(床に置いてある石を指して)

トヤマ 昨日、福岡に着いてから、福浜に拾いに行ったんです。これ(足元ーー作品Cを指して)、ポスターなんですけど、この作品は石の上にポスターを1000枚くらいどかっと置いて、成形しているんです。紙だけど彫刻っぽく見えるのが面白いなと思って浅草のときにやって、今回も写真を変えてやってみたんですけど。大きさの違う石を何種類か拾ってきて、床に置いてあるものはその余りです。

(作品 C)DEVENIR 2022/11/11-11/27 出品作:無題


こっち(額の下に置いたものーー作品D)はレイアウトに使えるなと思ってここに置いたんですが、あっち(作品の下部の床のものーー作品E)はもうただたまたま置いてあったものをそのままにしただけ。で、これは今回のためにつくったチラシをただ貼っているだけなんですけど(作品F)、これも、仮レイアウトみたいな感じで一旦試しに貼ってみたらクルッとカーブして。

(作品 D)DEVENIR 2022/11/11-11/27 出品作:無題
(作品 E)DEVENIR 2022/11/11-11/27 出品作:無題
(作品 F)DEVENIR 2022/11/11-11/27 出品作:無題


川島 かわいい。

トヤマ これもそのままでいいなって。そういう、仮の状態みたいなことが好き。

川島 音楽もやってたんですか?

トヤマ ちゃんとはやってないです。楽器とか買ってちょっと触っただけ。

米山 DJは?

トヤマ あ、DJはやってましたね。

川島 そういうのも関係あるのかな。

米山 即興性、みたいな?

川島 偶然、みたいな。

トヤマ でも、DJやってたときは、60分時間をもらったら、60分のセットを割ときっちりつくっていってましたね。

米山 でも、即興性みたいな要素はありつつも、展示もプランは2ヶ月前くらいにちゃんと決めてますよね。曲のセットは事前に決まりつつも、現場でも微調整する、みたいなことは意外と繋がっているのかな。

トヤマ そうかもしれない。小鳥さんは音楽やってましたか?

川島 小学生のときにドラムやってた。

トヤマ・米山 へえ〜!

川島 1ヶ月だけ。先生に贔屓されてて、卒業生を送る会で「川島くんドラムやって」って(笑)。

米山 楽しかったですか?

川島 楽しかったんだけど、辞めざるを得なくなって。野球部に無理やり入れさせられて(笑)。クラスメイトに。

米山 小鳥さんの展示はある種、ものすごく即興性がありますよね。空間を埋め尽くすタイプの展示が多いですけど。前もって完全にプランを決めているとしたら相当やばいなっていうくらい数があるじゃないですか。どうやって決めているんですか?

川島 米山さんに本をつくってもらう時とかに思うんですけど、頭の中が立体的じゃないですか。

米山 そうですか?

川島 自分には無い能力だと思って。

米山 本は立体物だからかな。

川島 自分はすごく平面。目の前のことしか考えられなくて。プランは一応考えるんだけど、僕も来週から展示なんですけど(*1)、まだあんまり決まっていなくて(笑)。

トヤマ 僕もそれを手伝っていて、少し参加もさせてもらうんですけど。まだ決まってないんですか?(笑)

川島 昨日、ちょっとひと段落した。二人とも決められるのがすごい。

トヤマ でも、小鳥さんは、ここどうしたらいいかなって相談してくれるんですけど、僕がこうしたらどうですか?って提案したことに、いいね、って言ってはくれるけど、結局は小鳥さんのやりたいことが実はすでにある気がしていて。だから本当に悩んでいるのかは実はあやしい(笑)。

川島 イライラする(笑)?

トヤマ イライラはしないです(笑)。

川島 可能性を全部出しておきたくて。これもできる、これもできるって、出してから、じゃあこれかなって決めるというか。

トヤマ 一度散らかしますよね。

川島 そうなんですよ〜。ディスられてる?(笑)これやろうかな〜って言ったら、またモリモリにするんですか?って言われる。

トヤマ・米山 (笑)

川島 みんなに。写真のプリントサイズ、小さい方がいいんじゃないですかってトヤマくんのアドバイスに、圧に負けて、小さくしたんですけど。

トヤマ その分、量が増えてるっていう(笑)。



川島 二人と話しているとほんとに違う能力だな〜って。仕事の時とかはセレクト早いんですか?

トヤマ 仕事のときは……僕がセレクトしたものは使われないことが多いんです(笑)。なので最近は、お任せします、になってます。

川島 僕は昔は「絶対これがいい!」っていうのがあったりしたんだけど。でも最近、中途半端に自分の希望を通してしまって、ああ〜、どうだったかな〜って思ったことがあって。自分で決めない方がいいんじゃないかなとか。

米山 仕事だと、全体の流れが見えている人が決めるのがいいかも、とかはありますよね。私の経験では、巨匠になればなるほど、仕事では「ここから選んで」って全部渡してくれる、という人が多いです(笑)。

川島 ああ〜。『GATEWAY』のときは? 

米山 『GATEWAY』は……あ、私が主催していいるYYY PRESSから不定期に発行しているオムニバス書籍のことなんですけど。

川島 僕もトヤマくんも参加させてもらってるんですけど。これもすごい早いんですよ。なんていうんだろう。フレッシュな感じ? 撮影から完成がすごいスピード感。

トヤマ 『GATEWAY』は早いかも。これは刊行のペースが決まっていなくて、前号は3年くらい空いたんですよね。でも、よし作るぞ、となったらすごい早くて。このボリュームでこの内容で、たくさんの人たちが参加しているんですけど、あのスピード感でできるのは本当にすごいことだなと。

『GATEWAY 202012』(発行:YYY PRESS)


川島 『DEVENIR』の写真はトヤマくんがセレクトしたんだよね?

トヤマ そうなんですよ。小鳥さんは僕が早いって言いますけど、仮組みした状態にして米山さんにところに渡すまでに1年以上かかってて。全然違うパターンのものがいくつもあった。

米山 その段階のものも見せてもらったりしていて。

トヤマ アドバイスもらいながら。

川島 メンターですか。3人くらいメンターがいる?

トヤマ そうですね。展示とかも、複写でやろうかなみたいなことを、メンターたちに(笑)話してみて、反応を伺って、あ、これは違うのかな、とか。

米山 こっちから「こうした方がいいんじゃないかな」みたいなことは言わないんですよ。逆に「何がやりたいんだろう?」って聞いて。「それならこういう方が伝わるのかも」という話をしたりとか。でも意外とトヤマさんも、実はやりたいことは決まってる、みたいな感触はある(笑)。

トヤマ あ〜。

川島 探りを入れるみたいな。

米山 決まっているけど、話すことでまた別の要素とか興味が飛び込んでくるんじゃないか、みたいなことを期待しているのかな?って。

川島 担当編集者的な。漫画家の編集者みたいな。

トヤマ そうかもしれない。

川島 いいな〜。

米山 小鳥さんが人に訊く時もそういう感じなのかなって。

川島 そうかも。そういう面もあるかも。トヤマくんは、自信があるんですか?

トヤマ 自信はないんですけど(笑)。ないから、人に訊いたり、本を読んだりして。これ全然良くないじゃん、って言われても、「いや、これはこういうことなんだ」って自分が納得できるようになれば、って。

川島 この前、トヤマくんにアドバイスしていただいて。「芯を持ちなさい」って。

トヤマ・米山 (笑)

川島 自分の中に基準があればいいと思いますよ、って。

米山 展示も本も作品づくりも、一人でやっていると、狭いところになりがちというか、小さく纏まりがちというか、あと手癖みたいなものが出てきやすいというか、自分がやっていることを再生産しがち、みたいな面もあると思うんですけど、二人はそれを注意深く避けているなという気がします。外から空気を入れることで。

川島 あ〜、確かに。DEVENIR軍団?

トヤマ (笑)

川島 破壊と創造を、されていて。

トヤマ 小鳥さんは被写体が人物の展示をしていることが多いけど、展示を見にいくと毎回違う印象を受けます。展示の方法とかも劇的に違うわけでもないのに、全体の受ける印象は毎回違う。狙ってやっているんですか?

川島 やっぱ、カヒミ・カリィの影響ですかね(笑)。毎回違う〜!みたいな。ミュージシャンの人に、アルバム毎に違ってびっくりさせられる〜みたいな。冗談ですけど。でも、遠くないかも。同じことはやりたくないなって。

トヤマ わかります。やってるんですけどね、同じことも。結局のところは。

川島 そうなんだよね。じゃあ、米山さんから見たトヤマさんの面白いところってどこですか?

米山 手法みたいな面の比重が重くなりだすと、その技術の方というか、「こういうことやってみました感」が強く出てきてしまう傾向があると思うんですけど、トヤマさんは何をやってもある一定のトーンがあるなというのが面白いというか。そこに作家性みたいなものが宿ってくるのかなと思ったりして見ているんですが。今回の作品も、詳しく聞かないと何をどうやっているかはわからないけど、それを知らないで見ても、いろんな含みを感じられるし、トヤマ節というものが感じられる。

川島 なるほど〜。

米山 小鳥さんについても言っていいですか?

川島 嬉しい。

米山 小鳥さんはこの人、って人を決めて一定の期間撮り続けるじゃないですか。未来ちゃんとか、太賀さんとか。

川島 はい。

米山 撮っている時は、頻繁に会ったり、何年も撮っていたりするし、あんなに沢山の数を撮っていたら普通は見慣れてくるというか、もう撮るとこないなってなりそうなのに、まずはその飽きなさがすごい。あと、同じ人を撮っていても、毎回新しい人を見ているような写真の撮り方をしているような気がして。だからその写真を見ているこちら側も、毎回その人の新しさが見えてくる、というのが強烈だなと思っていて。そういう撮り方ができる人って他にあまり思い浮かばないんです。

川島 はあ〜。

米山 もうすぐ始まる小鳥さんの展示のお手伝いを私もしているんですが、とても大きいサイズの本を一緒につくっているんですね。それの写真も、完全にニュー小鳥だなって感触があって。

川島 コロナ禍の時期の写真ね。

米山 コロナ禍に入る直前に、『おはようもしもしあいしてる』という写真集を小鳥さんとつくったんですけど、その本は人物なしの風景の写真集なんですよね。その続編という感じで、コロナ禍に入った直後の2020年の春に小鳥さんが撮った写真で、その大型本をつくろうとなって。人物はちょっと入りつつ、風景メインで。モチーフ自体は、まあ、『おはよう〜』と変わらないんですよ。花・猫・街・電車とか。それは変わらないんだけど、写真としては見たことのない写真になっていて。この人、更新してるな〜、って。

『おはようもしもしあいしてる』(発行:蔦屋書店)


川島 揺れてる? ブレてるだけかも(笑)。トヤマくん、揺れてますか?

トヤマ 揺れ……てますね(笑)。揺れてるのが通常というか、どっちかに傾きたくないからバランスをどうやって取って行くか、みたいなことはよく考えます。

川島 決まってるものが苦手、みたいなのはずーっと変わらないんですか?

トヤマ 苦手かもしれないです。これはなんなんだろう、っていう分かりづらいものが昔から好きだったかもしれない。

川島 だから現代美術とかも好きなのかな。

トヤマ 好きなものばかりじゃないですけどね。僕は米山さんのデザインが好きなんですけど、米山さんのデザインってわかりにくい気がする。

米山 そうですか?

川島 ザ・凝ってるみたいな装丁とかやろうと思えばできるのに、しないよね。やっぱり洒落者だから? 本当のおしゃれ、みたいな?

米山 どうでしょう(笑)?

トヤマ わからない部分が結構ある。なんでこれはこうなっているのかとか、こうしているのか、っていうのが。そういう部分があったほうが自分には魅力的に見える。

米山 仕事をやっていると、言葉で簡潔に、これはこうですよ、と説明しなくちゃいけない場面もあって、それはそれで必要があればやるんですけど、基本的にはそうやってひとことで説明ができるなら、もうそれはつくらなくていいのでは、みたいな気持ちはあるかもしれないですね。

川島 もともと?

米山 うーん、もとは……、なんだこれは、みたいな、よくわからないけどでもすごい、というものと出会って、なんでこれがいいんだろう? 自分もこういう凄さに近づくにはどうしたらいいんだろう? と思ったのが、こういう仕事を志した頃の原体験としてあるのかもしれないです。本だったり、音楽だったり、美術だったり色々あるんですけど。そういうものをつくる存在に近づきたい、というのはあるかもしれない。

川島 いい〜!! でもちょっとわかるかも。

米山 自分の中ではこれがこういうふうになったらいいはず、という確信はあるんですけど、それを言葉を介さず、ものにそのまま置き換えたい、みたいな。

川島 ああ〜! じゃあ、本当は言葉で説明したくない?

米山 本当は、見たらわかるでしょっていうものになっていたらいいな、という願いはあります。

トヤマ わかります。

川島 ああ〜。

米山 でも、伝わる速度や強さとかの尺度で言うと、ワンワードで伝わるとか、見た目が華やかとか、そういう方がもちろん機能するので。それが必要だなというときは、多少は頑張ったりもしますけど。

川島 ふたりはどうやって出会ったんですか?

米山 一番最初は、編集者の方に、トヤマさんのウェブサイトを教えてもらって。

トヤマ 2014年くらいですかね? 僕が小鳥さんと会った頃と同時期だ。

米山 その少し後くらいに「ミツメ」っていうバンドを別で知って。すごくいいバンドだな〜と思って調べたら、トヤマさんがずっとジャケット写真やアーティスト写真を撮ってる、と繋がって。あと共通の友人で吉川周作さんというフォトグラファーがいて、吉川さんに紹介してもらいつつ『GATEWAY』に一緒に参加してもらえませんかって連絡して、事務所に遊びにきてもらったのが最初ですね。その時は緊張しました。

質問1 (ZINEを制作した山崎さんより)

Q 今回展示されている作品の中で、トヤマさんの一番お気に入りは?

トヤマ 一番とかは基本的にはないんです。今回、この展示のために全て新しくつくったんですけど……。ここに置いてあるポスターの塊は、このフォーマットでやるのは2回目で。こういう感じのことは引き続きやっていきたいなと思ってます。なんだかよくわからない曖昧なものとして。

質問2 (本屋青旗の店長より)

Q みなさんに聞きたいんですけど、定着させる方法の選択肢がたくさんある、っていう話があったじゃないですか。それは映像でもwebでもいいのに、みなさんは3人ともよく本をつくられていますよね。なぜ本なんでしょうか? 本に定着させる必要がある、と思うのはどうしてでしょうか?

トヤマ いま挙げてくださったものの中で、本が一番好きなので……単純に好きだからっていうのがあるんですけど。なんでだろう。

川島 僕は、高校生の時に写真を好きになったんですけど、写真を、雑誌とか写真集とか、本で見てて。それまで写真のイメージって、「椰子の木」みたいな。

米山 「椰子の木」? 風景、みたいなこと?

川島 自分と全く関係ないものみたいな。関係ないっていうか、興味がなかったんですけど。でも印刷の感じとか、軽さとか、撮っている人のパーソナルな世界みたいなものが、本だと直接伝わってきて。本が好きなのは、そういう初期の記憶があるからかも。写真が好きというよりは、写真が印刷された本が好き、みたいな。

米山 あ〜、めちゃめちゃわかります。

川島 僕、初めての展示が遅いんですよ。30歳くらいとか。どうやっていいかわかんなくて。

トヤマ 本はずっと前からつくってましたよね。

川島 そうなんですよ。本は手作りでもやってたし、まずは本の印刷が好きで、後から写真が好きになった。プリントとかはその後、好きになった。

米山 雑誌育ち世代ですよね。あまり世代で言うのも何ですけど。私は小鳥さんと同じ歳なんですけど、中高校生の頃はインターネットが今のようには当たり前にはなくて、まず最初に情報を得る手段が紙だった。小さい頃から紙の上に刷られた文字と写真を見て育ってきていて、それが大前提としてまずある、というのはありますよね。私も高校生の頃、雑誌で紹介されている何かの作品をみて、どうも美術館というところに展示されているらしい、と見に行ったら、なんだか本物より雑誌で見た時の方がかっこよかったな、みたいなことがわりとあって。もちろんそうじゃないことも多々あるんですけど。本物より、現実より、紙の上のものの方がグッとくるみたいな体験が結構あった気がします。

川島 うんうん。

米山 なのでついそっちを信頼したくなってしまうところがあるかもしれない。私、このZINEの中で……写真は現実を切り取るじゃないですか。トヤマさんは実際に見ていたものより写真の方がしょぼくなっちゃうと悲しい、みたいな発言をここでしていて、それに対して小鳥さんが「写真の方が超えてくることあるよ」って言ってて。その感覚すごくわかるなと思いました。

川島 ああ〜。

米山 現実よりも、切り取られたものにグッとくることにグッとくるというか。

川島 あるある〜。もともと、現実が嫌いだったから(笑)。ティーンネイジャーのとき。

米山 そういう感覚ありましたね(笑)。

川島 映え的な発想ですか?

米山 っていうと何だけど。

川島 そうなんですよ。だから、現実を切り取るっていう感覚ではなかったかな。最初の頃は特に。

トヤマ 自分の宝物みたいな?

川島 というより、映画のなかに入りたいみたいな。

米山 ある世界観のなかに入りたいみたいな? 本とか雑誌とかもそういう感覚ありますよね。

川島 そうそう。

トヤマ 僕はそういう感覚が薄いのかも。ZINEのなかでも「TVドラマとかを見てない」って話をしているんですけど、大人になってから小説とかも読めなくなってきて。最近は映画とかも見られなくて。世界観に入っていくというよりは、跳ね返される感じが欲しいというか。

川島 へえ〜。

トヤマ 現実よりも写真が良くならない、って僕が言ったのは、写真は現実のコピーという感覚があって。コピーなんだけど同じにはならない。何かから何かに変わるときに翻訳的な行為があって、そこでこぼれ落ちるものとか、逆にくっついてきちゃうものがあって、100%同じものはあわられてこない。そのときに抜け落ちちゃう部分が多すぎるとがっかりすることがある、という意味なんです。

米山 今はむしろ、その、100%同じものにならないということ自体に興味が出てきている?

トヤマ そうですね、それを肯定しないと続けられないというか。見方を変えてみようという感じです。

川島 そうか〜。

米山 そこの転換がありますよね。『DEVENIR』で。

トヤマ ずっとひとつのことをやっていると、マンネリ化してくるじゃないですか。でも、小鳥さんはスッと同じことをやっているようでちゃんと変化があるから、自然とそれができているからすごいなと思うんですけど。

川島 全然、自然じゃないよ。

トヤマ 僕は浅草の展示から急に変わった感じになったのかも。

川島 『「   」』(通称:void)のときは?

トヤマ この時期は、空っぽというか、空虚なフィーリングのものに惹かれて、無意識に撮り溜めていて。この写真集をつくっている時にちょうど小鳥さんに会って見てもらいましたね。これは確かに、めずらしく言語化できるくらいにテーマを設定してつくった本かもしれない。そこら辺からちょっとづつやり方を変えていたのかも。

『「   」』(発行:YYY PRESS)より


川島 面白い。

米山 なぜ本なのかという話に戻りますが、本にしておくとそういう変遷をすぐ振り返れるのがいいですよね。自分がYYY PRESSを始めたのは2015年で、30代半ばくらいの時期なんですが、その時期って自分が10代後半や20代前半に触れた文化が歴史になるじゃないですか。とてもアクティブでリアリティがあったものが、まず、終わるっていうことがあるんだな、と。さらにそれが一回忘れられて、また再発掘される、みたいな現象が、目の前で起きて。それを経験して、あ、再発掘できる状態にしておくべきだなと思ったんですよ。今を。

トヤマ 確かに、僕、古本屋が好きでよく行くんですけど、写真を撮って本をつくったりし始めたときから、10年後とか30年後とかに、誰かが自分のつくった本を見つけて、なにこれめっちゃいいじゃんって思って欲しいなとずーっと思ってました。

川島 同じこと言ってる!

米山 つくった本が古本屋で売られていると悲しむ人もいるんですけど、私はむしろ嬉しくて。循環し出したな〜って。また別の人が見てくれる可能性がひろがるというのがいい。あと、自分で本をとっておいて自分で思い出せるのもいいし。自分がやったことって、直後から2〜3年間、見返せなくなるんですよ(笑)。

川島 うんうんわかる。

米山 一旦定着させたけど、そこから自分はもう移動していて、ちょっと前の自分を見返すのはすごく恥ずかしいんです。けど、本にして残しておくと、5〜6年経ってからおそるおそる見返して「意外といいな」って思える時もあって。

トヤマ わかります。

米山 強制的に、もの、本にして残しておくのは大事だなと。本は保存性と一覧性に優れているので。

川島 今の話と関係あるかわかんないけど、高校生とかの頃って、すぐ全部が過去になるじゃないですか。自分が書いた文字とかも気持ち悪い、生々しいみたいになって。写真は機械が撮っているからいい、って思った記憶がある。

米山 絵とか自分が直接書いたものだと、見返すのが辛い。

川島 ちょっと前の自分すぎる!ってなっちゃう。

トヤマ 僕は写真でも気持ち悪いと思う時あります(笑)。

米山 でもちゃんと見返したりしますよね。

トヤマ 見るのは撮った直後と、やっぱり何年か経ってからですね。つくっているときが一番楽しくて、実際にものが出来上がる直前までは楽しいんだけど、いざ出来上がりそう、となってくると凄い怖くなるというのはないですか?

川島 決定されちゃうことに?

トヤマ これがいいかどうかっていうことに自信はないので。動きはじめてしまってもう戻れない……って。

川島 パブリッシュ・ブルーみたいな?

トヤマ そうかも(笑)。毎回、本でも展示でもありますね。今回も、昨日搬入を終えて、今日またここに入ったときに、ああこれもっとああしても良かったかなとか、絶対思っちゃいます。

川島 でもそこからまた調整するとかはない?

トヤマ あんまりあんまりやらない。一回これと決めたから、いいや、ということにする。そこに対しての諦めはありますね。まあ、そう思えるから、写真集とかつくれるのかもしれないです。

米山 小鳥さんはパブリッシュ・ブルーありますか?

川島 あるかな〜。展示の方があるかも。

トヤマ エキシビジョン・ブルー。

川島 ありますね。ディープ・ブルー(笑)。本をつくるときって、見てくれる誰かを想定したりするんですか?

トヤマ つくるとき……はあんまり考えていないかも。

米山 私もそれはあまり考えないかも。

川島 それよりは「こういう感じを置き換えたい」って方を? さっき言ってたみたいな?

米山 そうですね……私は、いつもゴールははっきりと見えてなくて。ひとりではつくらないせいかな。こういうことやりたいです、って人に投げるんです。それを打ち返してもらう瞬間が一番楽しいですね。こんなの来た〜、って盛り上がって、レイアウトとかはその勢いでバッとやって、印刷して、それが刷りあがって製本される頃にはパブリッシュ・ブルーがはじまる。

川島 あるんだ!

米山 あるある。『GATEWAY』の1号目をつくったときは特にすごかったですよ。パブリッシュ、って、公開する、世に問うことじゃないですか。なんで私はこんなことを世に問うているんだろうって眠れなくなったり。どういう人が読んでくれるのかという想像もできないし、本当に読んでくれる人がいるのかどうかもわからないし。でも、やらなきゃ、残さなきゃという謎の使命感だけで(笑)。

トヤマ 残したい、って気持ちが強いんですか? 今の感じを。

川島 残さないとなくなっちゃうから?

米山 忘れっぽいので。でも、今このグッと来ている感じを残したい。

川島 グッときたタイミングでバッてつくるんだ。

米山 そうですね。

トヤマ 僕も忘れっぽくて。デジカメで撮るようになってから思ったんですけど、撮った写真を見返すと、メモリーカード1枚分くらいしか撮ってない年があって。64GBしか振り返れるものがないのか、俺の一年って64GBなのかって、寂しさを感じて(笑)。だから残せるのなら残した方がいいのかも。

川島 撮るだけが写真じゃないもんね。

トヤマ そうですね。

川島 見て選んでどうやって人に見せよう、まである。

米山 小鳥さんはそのプロセスのなかでどのタイミングが一番好きですか?

川島 僕はですね、やった〜っていう瞬間です。

米山 それはどこ(笑)?

川島 いろんな条件、いろんなレイヤーで、今までこの感じではこんなにいいのが撮れなかったかも、っていう写真が撮れているのを見たときかな。ジャンプとかする。

米山 ピョーンって(笑)?

川島 何年かに1回。でもそれが後々、普通だったな〜ってこともあるんだけど。

トヤマ わかります(笑)。

川島 わかる?

トヤマ 逆に、その時全然良くないなって思っていたものが何年後かに見たらめっちゃいいのあるじゃん、みたいなこともありますよね。

川島 その日の朝か夜かでも違うかも。

米山 変わりますよね。

トヤマ それの繰り返しですよね。

米山 でも、その、やった〜って思った時の感じを、覚えておきたいじゃないですか。

川島 あー!そっかそっか。あ、じゃあ、結構、高揚感系? ハート系?

米山 実はそうかも。

川島 おお。

トヤマ 僕もそうですよ。結局。

川島 たしかに〜。

トヤマ そっちに行ききらないようにバランスを取るってことをしますけど。

米山 その、高揚感系なのも、それ系だな〜ってことが一瞬でわかると面白くないじゃないですか。じんわり、あれ、これもしかして…くらいがいい。趣味の問題かもしれませんが(笑)。

トヤマ・川島 (笑)

米山 小鳥さんはセレクトってどうやって決めますか?

川島 20年分の風景写真を、米山さんがまとめてくれたじゃないですか。

米山 『おはようもしもしあいしてる』のとき。

川島 そのときも、めちゃめちゃな枚数を渡しちゃって。同じ写真が何枚も入ってたり。

米山 入ってましたね(笑)。全部で3,000枚とかあったかな。

川島 選べないのが年々加速してしまって。まあ、「この人の写真集、時系列」とかって区切ったらできる場合もあるんですけど。そういうのを外したときに、わからなすぎて。でもそういう制約、外したい。どうしたもんかなってなっちゃうんですけど。だからトヤマ先生に色々聞いて。

トヤマ いやいや。僕も区切らないとつくれなくて。ここに旅行に行ったときの写真、とか。『DEVENIR』も結局、区切ったものを集めていて。

川島 どうやってセレクトされてるんですか(笑)? 逆に、とかないの?

トヤマ あるかも。

米山 どういうことですか?

川島 これはいわゆるいい写真だから逆に外そう、とか。

トヤマ すごく綺麗なシークエンスに、わからない写真がポンって入ってきて、なにこれ、ってなる感じが僕は好きで。そういうのが僕は「逆に」だと解釈したんですけど。そういうのが好きでやりたいんですけど、自分ではなかなかできない。セレクトは……シリーズごとにどういう写真があったらいいか、あったら余計か、という考え方で選んでいったかも。引いたり足したり。そういうのを米山さんに見せて、「そういうことが伝えたいならそれは抜いた方がいいんじゃないか」みたいなアドバイスをもらったり。

米山 シークエンスで考えているんですね。

川島 立体的に。

米山 写真家の人って、一枚で見せるタイプと、組みで見せるタイプに分かれるなと思っていて、それぞれ全くものの見方が違うなと思うんですけど。おふたりは組み写真派ですよね。一枚でどうこうしようとそもそも考えていない。

トヤマ 本で見るとシークエンスでしかないから、本が好きなのもそれでかも。

川島 あ、僕、思い出した。僕の写真って、普通なんですよ。

米山 シチュエーションとかが日常的だったりということ?

川島 なんていうんだろう、まあ、普通なんですよ。スナップ写真だし。特に最初の頃とかは。でも、量がたくさんあって。そのボリュームで何かを伝えたくて、自分でそれを組んでみたりして醸し出される感じがあって。その、一枚でどうこうみたいなのがそもそも難しいタイプかも。展示のときとか、自分の中では普通だけど、みたいな写真がすごく大きく飾られていると、恥ずかしいなって思っちゃう。

米山 逆に、これめっちゃ良く撮れたな〜って写真が大きいと?

川島 アガりますね(笑)。でも最近、分からなくなってきちゃって。「逆に」系入ってきちゃったかも。「逆にこのタンポポよくない〜?」みたいな。

トヤマ 小鳥さんの展示の準備を手伝っているとき、そういう話になってましたね。なんの変哲もない、タンポポが空き地に咲いている写真を大きくしようかなって迷っていて。僕はそれがすごくいいなと思いました。

川島 良かった〜。

トヤマ 僕は「これ撮れた」みたいなのが恥ずかしいタイプで(笑)。色もコントラストが強くて、バンって写真をみると、ちょっと胸焼けしちゃうみたいなことがあって。なるべく弱いものの方が基本的には好きです。

川島 トヤマくん、デジカメのトーンも黒が締まってないもんね。グレイッシュ。

トヤマ はい。僕がフィルムの現像とかデータ化をお願いしている街の小さい写真屋さんがあって。そこに最初にお願いしたときに「もうちょっとコントラスを下げて欲しい」「バキバキにしないでほしい」と注文したら、僕が次から出すときはその設定で出してくれるようになったんですけど、小鳥さんにそこを紹介したら、小鳥さんにも「トヤマさんの設定でやっておいたんで」って対応してくれたらしくて(笑)。

川島 ありがとうございまーす!!(笑)

トヤマ だから今、僕と小鳥さんは同じ設定なんですよ(笑)。

米山 それ見てどうでした?

川島 いい〜。

トヤマ・米山 (笑)

川島 現像所によって写真が全然変わるのも、おもしろい〜と思って。

質問 3(来場者の方より)

好きとか興味があるとかそういうことが原動力になっているのだなと今日のお話を伺って感じたのですが、自分は、そういうことを受信できるときもあれば、前にはすごく良いと思ったのに今日はうまく入ってこないな、という時もあって。そういうときにどういうふうに切り替えたり乗り越えたりされているのか、何か方法があれば教えてください。

川島 米ちゃんは冬眠期間あるよね。

米山 あまり人前に出ていかない期間、ありますね。そして上がった時に『GATEWAY』をつくる(笑)。

トヤマ なるほど(笑)。

川島 助走期間!

米山 何をして回復するか……。今までいいと思っていたものがいいと思えなくなくなるときって私も経験があるんですけど、そういうときはむしろ変化のチャンスだと思って、前向きに。逆に今まで避けていたものとか興味がなかったものに触れてみるというタームにします。友人に勧められたものをとりあえずやってみる、行ってみるとか。何かしらそれで次の種が見つかることもあったり。

川島 へえ〜。

トヤマ 僕は今までやっていたことが自分でつまらなく感じることがあって。そういうときは本を読みます。自分が過去にやっていたことに通じる文章を見つけたりすると、いろんなことが繋がって、新しく解釈できたりするようになることがあって。肯定的になれたりするので。

米山 自己分析モードに入るというか。

トヤマ はい。

米山 小鳥さんは?

川島 うーん。扉を開けるしかないんじゃないですか。

トヤマ・米山 (笑)

米山 勇気を出して。 

川島 扉を設定して。うーん、自分、どうしてるんだろう。

トヤマ 猫飼うのもおすすめします。自分が落ち込んでたりしていても、全然それとは関係ない生き物がいるだけでちょっと気が楽になるというか。

川島 あー、わかるかも。

トヤマ そういうのありますよね。



(*1)
東京、水道橋の旧原島ビルで行われた展示1『Pink Noise Dance』(2022年11月19日〜 27日)。
写真:川島小鳥 絵:小橋陽介 協力:トヤマタクロウ、米山菜津子、藤田裕美



プロフィール

本屋青旗

Ao-Hata Bookstore/1988年生まれ。写真を用いた作品制作を中心にクライアントワークにおいても幅広く活動。https://aohatabooks.com/

川島小鳥

かわしまことり/1980年東京都生まれ。写真家・沼田元氣氏に師事。2007年に『BABY BABY』を発表、11年に『未来ちゃん』で第42回講談社出版文化賞写真賞を受賞、14年に『明星』で第40回木村伊兵衛写真賞を受賞。ほか、詩人・谷川俊太郎氏との共著『おやすみ神たち』、『おはようもしもしあいしてる』など。

トヤマタクロウ

1988年生まれ。写真を用いた作品制作を中心にクライアントワークにおいても幅広く活動。https://takurohtoyama.com

米山菜津子

よねやまなつこ/1981年生まれ。グラフィック・エディトリアルデザイナー。出版レーベルYYY PRESS主宰。オムニバス冊子『GATEWAY』を不定期で発行するほか、オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY運営としても活動している。https://natsukoyoneyama.tokyo.jp/